コラム:ボールペンの選び方 (4) −− ゲルインクボールペン編

前3回の続きです.

ゲルインクボールペン

水溶性の溶剤に,ゲル化剤を配合したインクを搭載したボールペンを,ゲルインクボールペンといいます.ゲルとは,粒子と溶媒が混ざりあった物質*1で,固体と液体の中間の状態にあるもののことです.別に特別な物質でというわけではなく,ヨーグルトなど,身の回りにゲルはたくさんあります.

ゲルの中には,圧力がかかると液状化し,粘度が低下する現象(チキソトロピー)を示すものがあります.このチキソトロピー性をボールペンインクに利用するというアイデアを発案したのは,サクラクレパスです.1984年に,キサンタンガムをインクに配合することにより,ゲルインクの実用化しています*2.これにより,水性ボールペンの欠点が解消されるので,ゲルインクボールペンは市場を席巻し,革命が起きました.その仕組は,次項で述べます.

特徴および長所短所

ゲルインクボールペンの筆記メカニズムは次の通り,少し特殊です.

  1. 替芯内部のゲルインクは,静止時には高粘度状態で留まっている
  2. ペン先を紙に押し付けたとき,ゲルインクに圧力がかかり粘度が低下
  3. 液状化したインクが,そのままペン先から流れ出て紙に付着
  4. 付着後は,圧力から解放されるので,再び固まる

これにより,水性ボールペンの欠点であった,筆跡の滲みがなくなりました.しかも,紙の表面で固まるため,裏抜け(裏写り)しにくい*3という長所が加わりました.また,ゲルインクは従来の水性インクに比べて乾きにくく,ノック式にしても,ドライアップの心配がありません

筆跡も,水性インクと同様に,均一で発色も良好です.ボールペンの中では,一番きれいに文字を書けます.特に,小さな字の筆記に最適です.ゲルインクにも,顔料配合と染料配合の2種類があります.顔料タイプであれば,耐水性・耐光性も優れてるので,長期保存文書の作成,提出書類の記入に最適です.ただし,乾きが遅いので,筆跡を手で擦って汚やさないように気をつける必要があります.染料タイプは,耐水性が保証されないので,要注意です.提出書類の記入には,耐水性等検証してからの方が良いでしょう.染料タイプは,顔料タイプより速乾性に優れるので,普段使い向きといえますす.

ゲルインクは粘度が低いので,もちろん低筆圧で書けます.とはいえ,従来の水性インクよりも粘度は高いので,摩擦抵抗もそのぶん大きめです.rollerball(水性ボールペン)ほど,サラサラとした筆記感は得られません.rollerballよりも高い筆圧に耐えることができますが,やはり,複写書類の記入には向きません.代わりに油性ボールペンをおすすめします.

ゲルボールペンには,欠点らしい欠点は見当たりません.強いていうならば,斜め筆記したり,素早く線を引いたり,丸つけをしたりしたとき,ペン先がインクで汚れやすい点が欠点です.対して,rollerballは全く汚れないです.また,油性や水性ほど尖った個性もない点も,マニアには物足りないと感じるかもしれません.

代表的製品

  • 三菱鉛筆社:シグノ(Signo)
  • ゼブラ社:サラサ(Sarara),サラサドライ
  • パイロット社:ハイテックC(HI-TEC-C),ジュース(Juice)
  • ぺんてる社:エナージェル(Energel),エナージェルユーロ,ハイブリッド,スリッチ
  • サクラクレパス社:ボールサイン

シグノシリーズ(1994年)*4 には,キャップ式とノック式両方があります.キャップ式は「シグノ極細」,ノック式は「シグノRT1」が現在の定番です.ボール径のラインナップは,共に0.28mm,0.38mm, 0.5mmで,細字筆記向けといえます.シグノ極細の方は少しカリカリとした書き味で,一方ノック式は滑らかな書き味です(同じ 0.5mmボール径で比較して).両方共顔料インクです.

サラサ(2000年)*5シリーズは,ノック式ゲルインクボールペンの定番*6で,一番手に入れやすい製品です.名前通り,インクが潤沢に出るタイプです.こちらは顔料インク採用.速乾タイプの「サラサドライ」は染料インクとのこと.

ハイテックC(1994年)*7は,極小ボール径のパイオニアといえるボールペンです.ニードルポイントと小さなボールの組み合わせることにより,滑らかな細字筆記を可能にしています.染料インクらしいので,耐水性は低いかもしれません.現在は,ジュースシリーズの方に注力しているようです.

エナージェル(2003年)*8は,インク潤沢タイプのゲルインクボールペンです.ノック式・キャップ式の両方があります.搭載されているエナージェルインクは,ゲルから液体への変化が普通のものより速く,それが滑らかな筆記感を生み出してるとのこと.さらに,紙への浸透速度も速いため,速乾性に優れるとのこと.また,エナージェルシリーズは染料インクらしいです.サラサドライは顔料インクを染料インクに変更して,速乾性を実現しています.エナージェルの場合も,染料インク故に紙に浸透し易いということでしょうか.

ニードルポイントで細字筆記向けのスリッチシリーズ(染料)も展開中.1989年に発売されたハイブリッドシリーズ(顔料?)もまだ販売中の模様.

ボールサイン(1984年)は,ゲルインクボールペンのまさに開拓者です.現在は少し影が薄くなってしまいましたが,おもしろいデザインの製品もあったりして,一目おいています.搭載インクは顔料タイプです.やはり,主要他社製品に比べると,手に入りにくいです.

種類が多いので,表にまとめました.

インク 顔料 染料
チップ形状 砲弾 ニードル 砲弾 ニードル
  ボールサイン     ハイテックC(HI-TEC-C)
  ハイブリッド     エナージェル(Energel)
  シグノ(Signo)     スリッチ(Slicci)
  サラサ(Sarasa)      
  ジュース(Juice)      

チップ形状の「砲弾」は普通のボールペンの,円錐の先を切り落とした形状のことです. 顔料&ニードルと染料&砲弾の組み合わせが無いのが意外です.

まとめ

適度な筆圧で,滑らかな筆記感,筆跡の掠れや滲みもありません.目立った欠点がなく,オールマイティ.筆跡の見た目を重視する場合,細かい字を書きたい場合はゲルインクに限ります.個人的なおすすめは,キャップ式ならハイテックC,ノック式ならシグノRT1.

*1:コロイドのこと,例えば,牛乳

*2:「ボールサイン」というゲルインクボールペンを発売しています

*3:水性ボールペンに比べて.ゲルインクでも染料系は裏抜けしやすい.

*4:シグノスタンダードの発売年 http://www.zebra.co.jp/cop/history.html より.

同公式サイトより,シグノ極細は1996年.シグノRT1は2013年.

*5:http://www.zebra.co.jp/cop/history.html

*6:公式サイトには,キャップ式製品の記載はないので,ノック式に限ります

*7:http://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/gel_ink/hitecc/

*8:http://www.pentel.co.jp/corporate/history/

コラム:ボールペンの選び方 (3) -- 水性ボールペン編

第2回の続きです.

水性ボールペン(rollerball)

特徴および長所短所

溶剤が水溶性のものを水性ボールペンと言います.水性ボールペンのことを,英語圏ではrollerball(ローラーボールと呼ぶようです.水性ボールペンの定義に,ゲルインクが含まれるかどうかは曖昧なところですが,本記事では,ゲルインク以外の水性ボールペン,つまり,昔ながらの水性ボールペンを,rollerballと呼びましょう*1

  • 低筆圧でさらさら書ける
  • 筆跡が均一で掠れない
  • 筆跡が多少なりとも滲む
  • 顔料インクならば耐水性耐光性に優れる
  • 基本的にキャップ式

rollerballの最大の特徴は何と言っても低筆圧で流れるように書けることでしょう.しかも,摩擦抵抗も程よくあって,ペン先もコントロールしやすいです.ペン先からインクが潤沢に出て来るので,筆跡は均一で,書き出しの掠れもほとんどないです.筆跡が途切れる心配はないので,構想を練ったり考えながら,しかも大量に書くのに最適です.この点に関しては,唯一無二の存在です.その代償として,線幅は太くなるのは避けられません.細かい字の筆記には向きません(逆に,太く書きたい人にとっては長所になり得ます).また,筆跡はどうしても滲みます.滲みを抑えるためには,紙質に注意しなければなりません(例えば,万年筆向けの高級紙を使うなど)したがって,基本的に,提出書類の記入には向かないでしょう.

インクは水性なので,耐水性がない様に思われますが,顔料インクであれば,一旦乾いてしまえば,耐水性と耐光性は良好です.染料インクの場合は,筆跡の耐久性は低いです.乾かした後でも,流水でほとんど消えてしまいます.染料インクで書いた文書を保存したい場合は,速やかにスキャンしましょう.

水性インクゆえ,キャップでペン先を密封しないと,乾いて使えなくなってしまうこと(ドライアップ)があります.したがって,基本的には,rollerballはキャップ式です.例えキャップし忘れても,一日二日程度では,ドライアップしないので,それほど神経質にならなくてもよいでしょう.しかし,キャップ式が煩わしい人・キャップをよくなくしてしまう人には,向かないでしょう.また,ノック式rollerballもありますが,なんとなくですが,筆記感に関して,キャップ式に劣るように感じられます.ドライアップ防止機構が何らかの形で導入されているはずで,それが,rollerballの良さを損ねているのではないでしょうか(確たる根拠はないです).ノック式にこだわるのなら,次回紹介するゲルインクボールペンの方がよいでしょう.

商品展開は,低粘度油性・ゲルインクボールペンに比べて非常に弱いです.コンビニ等では基本的に売っていません.文具店・通販では扱われているので,そこまで心配する必要はなさそうですが….

代表的製品

主要メーカーの代表的な製品を以下の通りです.ただし,上でも述べた理由により,キャップ式に絞りました.ここでは紹介しませんが,海外製品の方がrollerballの種類は抱負です.

  • 三菱鉛筆社:ユニボールアイ,ビジョンエリート,ユニボールエア
  • パイロット社:Vコーン,ハイテックポイントVグリップ
  • ぺんてる社:ボールPentel

ユニボールアイ(1994年)*2ビジョンエリートは標準的なrollerballです.以下,カッコ内は発売年.両方とも,顔料インク採用です.ボール径は0.5mmのみです.

ユニボールエア(2016年11月26)*3 は少し特殊な新発売rollerballです.ペンの傾き角に応じて,描線の幅が変わるように作られています.ボール径は0.5mmと0.7mmの2種類(描線幅はそれぞれ0.3--0.5mmと,0.4--0.6mm)があります.

Vコーン(1991年)*4はロングセラーでかつ定価\100円と最廉価帯に属します.rollerballとしては標準的.インクについて,公式サイトで言及されていないので,不明です.ボール径は0.5mmのみ.

ハイテックポイントVグリップは,ペン先がニードルタイプのrollerballです.こちらは公式サイトで染料インク採用と明記してあります.ニードルポイントである利点は,正直なところ,私には思いつきません.ボール径が0.5, 0.7, 1.0mmと抱負なのが珍しいです*5

ボールPentel (1972年)*6 は,ペン先とボールが樹脂素材でできているのが最大の特徴です.インクの貯蔵形態も,中綿式(綿に染み込ませる)と珍しい.ほとんどのrollerballは直液式と呼ばれる形態です.この樹脂と中綿という組み合わせが,金属ボールとはまた違った独特な筆記感を生み出しています.もちろん低筆圧で書けますが,ザリザリとした抵抗感があります.長時間の筆記には向かないかもしれません.しかし,この金属フリーでリーズナブル(定価\100円)でレトロな雰囲気を漂わせた最古参rollerballを一度試してみてはいかがでしょうか.染料インク採用なので,耐水性・耐光性はありません.また,ボール径は0.6mmと,ここであげた他rollerballよりも若干大きめです.それに従い,描線幅も若干太めです.

まとめ

低筆圧で(太めの線で)大量に書きたい場合に最適です.筆跡が掠れたり,途切れたりしないので,思考を妨げることはありません.水性インクゆえ,筆跡は多少なりとも滲むので,提出書類の記入には向きません.個人的なおすすめは,Vision EliteとVコーンです.

第4回へ続く.

*1:rollerballにゲルインクボールペンも含まめる人もいるかもしれませんが,少なくともここでは,「rollerball=ゲルインク以外の水性ボールペン」とします.

*2:http://www.mpuni.co.jp/company/history_02.html

*3: http://www.mpuni.co.jp/news/pressrelease/detail/20151030203955.html

*4:2016年GoodDesign賞受賞:http://www.g-mark.org/award/describe/44654?locale=ja

*5:1.0mm径の国産現役rollerballは他にないかもしれません.

*6:http://www.pentel.co.jp/corporate/history/

コラム:ボールペンの選び方 (2) --低粘度油性ボールペン編

前回記事の続きです.

低粘度油性ボールペン

簡単な歴史

三菱鉛筆社は, 2006年に「ジェットストリーム」という,新開発の低粘度な油性インクを搭載したボールペンを発売しました.その滑らかな書き味のインパクトは絶大で,油性ボールペン市場を,あっという間にジェットストリーム一色に塗り替えてしまいました.ボールペン史における革命と言っても過言ではないでしょう.これを契機に,主要各社も後を追うように,低粘度な油性ボールペンの開発・販売し始めます.現在では各社から似たようなコンセプトの商品が販売されています.これらは,一般には「低粘度油性ボールペン」と呼ばれるようです.

特徴および長所短所

低粘度油性ボールペンは,溶剤の配合が大幅に変わっているため,インクの性質も結構変わっています.特徴は下記の通り.

  • 低筆圧で書ける
  • 滑らかな書き味
  • 発色が従来油性より優れる
  • 各社の主力商品
  • 多くは顔料が配合されている
  • 水に配合成分の一部が滲む
  • 従来の油性に比べ高価

ジェットストリームでは,ボール径が0.7mmの場合,30〜40%程,筆記摩擦が低減されているそうです*1

 そのため,低筆圧で滑らかに書くことができます.さらに,インクの発色も従来油性よりもはっきり濃くなっています.低粘度油性ボールペンのインクの多くには,顔料が配合されているため*2,耐水性はもちろん,耐光性にも優れます.ただし,従来油性は水に全くにじまないのに対し,低粘度油性はおそらく成分の一部がにじみます.もちろん,読めなくなるということはないので,気にする必要はないでしょう.

歴史の項でも言いましたが,従来油性よりも低粘度油性のほうが,今となっては各社の主力商品となっているので,入手性は低粘度油性ボールペン(というよりはジェットストリーム)の方がよいです.両者を店頭で試し書きしたときに,圧倒的に低粘度油性のほうが滑らかで筆跡も濃くきれいに見えるので,低粘度油性の方が売れるのは致し方なしでしょう.価格は低粘度のほうが高い傾向にあります*3

このように書くと,従来油性の存在意義が無いように思われるかもしれませんが,そんなことはありません.次の項で,従来油性と比較しながら,最適用途について考えましょう.

最適用途について--従来油性と比較して--

低粘度油性は摩擦抵抗が小さいため,筆記時にペン先が滑りやすく,精密にコントロールしにくくなっているので,従来油性ほど,複写式書類の記入には向きません*4.さらに,ツルツルな紙(一般に高級紙)や,硬い机の上に紙一枚のような状況*5も大変厳しいです.したがって,一般的には,摩擦抵抗の高い状況では低粘度油性,そうでない場合は,従来油性ということになります.例えば,コクヨのキャンパスノートは比較的ザラザラした紙質なので,低粘度油性ボールペンは滑らかに心地よく書けるのではないでしょうか.このあたりはボールペンや個人差が大きいことなので,実際に試してみないことにはわからないというのが正直なところです.

発色とカラーバリエーションに関しては,低粘度油性の方が明確に良いです.様々な色を使いたい,赤色でコピー用紙の印刷物の校正をする用途では,低粘度油性ボールペンが適していると思います.

 低粘度油性のインクは,基本的に顔料成分が配合されているため,従来油性よりも筆跡の耐久性は優れるといっても間違いはないですが,最適用途を考える上では,微妙なポイントになります.先の項でも触れた通り,低粘度油性インクは耐光性に優れますが,水に配合成分の一部が溶け出すようなので,耐水性については,若干難ありです(高湿度の環境下で書類を重ねた場合,別の紙に裏写り(転写)してしまわないか,など).結論としては,従来油性と同様に,記入書類の長期保存にはそれほど向かないといえるでしょう.

代表的製品

主要メーカーの代表的な製品を以下の通りです.

ジェットストリームは低粘度油性ボールペンの爆発的普及のきっかけを作った始祖でありながら,最高の完成度を誇るシリーズだと思います.どこにでも売っています.

アクロボールは,ジェットストリームよりも若干ですが,摩擦抵抗を感じるような気がします(目隠ししたら,わからないかもしれない程度です).従来油性の面影が僅かに感じられるので,人によってはアクロボールの方を好むかもしれません(私はそうです).余談ですが,低粘度油性かどうかはわかりませんが,かつてA-inkというものもありました.*6

ビクーニャは,上二つと比べてさらに低粘度で,独特の筆記感が面白いです.紙に書くというよりは,インクを紙に塗りたくる漢字で,私は好きです.ただし,インクの消耗が早く,べたつく感じがあるのが難点.郵便局に備え付けのペンは,ビクーニャだと思います.最廉価モデルが定価\100円と安い.

スラリは,独自の「エマルジョンインク」採用を謳っていますが,低粘度油性に分類して問題ないでしょう.基本的には,ジェットストリーム・アクロボールと同様です.ビクーニャと同じく,定価\100円と安いのが特徴でしょう.

まとめ

低筆圧で濃い筆跡を書きたい場合,摩擦抵抗の高い紙への筆記,カラーインクを使いたい場合,などに低粘度油性ボールペンは適しています.個人的なおすすめは,パイロット社のアクロボール.価格を気にしないなら,Caran d'Ache 888 inifinity もおすすめです.

第3回へ続く.

*1:http://www.mpuni.co.jp/products/ballpoint_pens/ballpoint/jetstream/standard.html

*2:少なくとも,ジェットストリームについては,顔料が配合されていることが,同上サイトに明記されています

*3:例えば,楽ノックが定価\100円に対して,ジェットストリームスタンダードが\150円と50円高いです.

*4:実は郵便局では低粘度油性のぺんてるビクーニャ採用ですが…

*5:従来油性でも厳しいですが,低粘度油性は,少なくともジェットストリームの場合は,それ以上に厳しく感じます.

*6:かなり前(10年ぐらい前?)の話ですが,Dr. Gripに搭載されていたA-inkというインクも滑らかで書き心地がよく,好んで使っていました. 今にして思えば,A-inkも低粘度油性だったのでしょうか? 現在では,A-inkは全て,アクロボールと同じアクロインキというものに置き換わっているため,検証できないのが残念です.

コラム:ボールペンの選び方 (1) -- 油性ボールペン編

概要

一口にボールペンと言っても,実に多種多様なものが売られています.それぞれに,一長一短があり,用途に応じて使い分ける必要があります.ここでは,ボールペンを,「油性」「低粘度油性」「水性」「ゲルインク」の4種類に分類し,それぞれの特徴および最適用途について,主観的意見を述べます.

 インクの分類

ペンのインクの主成分は,溶剤,着色剤,定着剤の3つです.

溶剤の種類には,油性・水溶性・「水性+ゲル化剤添加(いわゆる,ゲルインク)」の3種類があり,それぞれ性質が大きく異なります.本記事では,油性をさらに,旧来の油性(以降,単に油性と呼びます)と低粘度油性とに分けて考えます.

着色剤には,染料・顔料の2種類があります.一般に,顔料インクは染料インクに比べ,耐久性(耐水性・耐光性)に優れると言われます.しかし,耐久性は各製品ごとにばらつきが見られるので,本記事では,着色剤の微妙な違いについては触れないことにします.

定着剤の違いについては,通常考慮されることはないので,本記事でも触れません(正確には,調べることや考察する能力がありません).

それではボールペンの溶剤別特徴と最適用途について,見ていきましょう.

油性ボールペン

特徴および長所短所

インクの溶媒として,有機溶媒(アルコール等)を用いたボールペンです.いわゆる普通の油性ボールペンのことです.次のような特徴があります.

  • それなりの筆圧が必要
  • インクの消耗が遅く,長く使える.
  • インクが乾き上がることがない
  • 筆跡が不均一
  • 比較的安価
  • ボール径のラインナップが豊富
  • 耐光性の低い物が多い

油性ボールペンの筆記には,インクの粘度が高いので,それなりの筆圧が必要です*1.逆に言えば,強い筆圧に耐えうるので,複写式書類の記入に最適です.また,筆圧が弱い人には向きません.

インクの乾燥(ドライアップ)することも基本的に無いので,上向き筆記しない限り,使えなくなるということは無いでしょう.また,一本で相当な距離を筆記可能です*2.ボールペンの中での信頼性は一番でしょう.また,価格も安価なものも多いです.ボール径の種類も豊富で,0.4, 0.5, 0.7, 1.0, 1.2, 1.4, 1.6mmなどが普通の文具店で売られています.

書き出しの掠れや,中抜け(普通の筆記線がーーーとすれば,===のような感じになってしまうこと),インクのボテ(ダマ)がどうしても出来てしまうので,筆跡の綺麗さは他に劣ります.同じ理由で,細かい文字を書くのにも適しません

油性の名の通り,耐水性は高いです.しかし,ほとんどの製品が染料インク採用のため,耐光性が低いことに注意して下さい.

代表的製品

主要メーカーの代表的な製品を以下の通りです.

  • パイロット社:スーパーグリップ,レックスグリップ
  • 三菱鉛筆社:ベリー楽ノック,パワータンク
  • ゼブラ社:ニューハード,ラバー80, ジムノック
  • ぺんてる社:ローリー(顔料)

パイロット社とゼブラ社のいずれの製品も,スタンダートな油性ボールペンといえます.三菱鉛筆社のベリー楽ノック(キャップ式はベリー楽ボ)は,インクが他のものに比べ,粘度が低く作られていて,より柔らかな書き味です*3トレードオフで,その分インクで汚れやすくなっています.パワータンクは,リフィル(替芯)自体が加圧されていて,内部からインクを押し出す機構になっているので,紙が濡れていようと,上向き筆記だろうと,どんな過酷な状況下でも書けます.ぺんてる社のローリーは唯一(のはず),顔料インク採用で,筆跡の耐久性に優れます.

まとめ

複写式書類の記入に最適.筆圧の弱い人と,細かい字を書く用途のには向かない.個人的にはパワータンクをおすすめ.

続きはこちら

*1:以前に比べて,粘度が下がっているように感じるので,0.7mm程度のボール径では,そこまで筆圧は必要ないとは思います.ただし,1.0mm以上のボール径になると,低筆圧な人には大変です.

*2:ゼブラ社の公式サイトに具体的な数値が載っています.例えば,標準的なF-0.7芯の筆記距離は,約850mです.

*3:公式サイトでは,最適粘度で滑らかなVery楽インクと採用とのことです.確かに,1.0mm, 1.4mmのもので書いてみると,他のものより低筆圧で書けます.

書評:「いかにして問題をとくか」G. Polya著,柿内賢信訳,丸善出版

 概要

数学者G. Polyaの古典的名著``How To Solve It (1945)''の日本語訳である.日本語版の初版は1954年.文章はやや読みにくい.数学における「近代発見学」,つまり,解答に至るまでの思考過程の分析とその方法論について,著者の考察が詳細に描かれている.読者対象は,どちらかというと学生ではなく,教える側の人間であると私は思う.書かれている事柄は,数学が得意な人にとっては,無意識に実践していることであるし,知らなかったとしても,本書を読んだから,解けなかった問題が解けるようになるとは思えない.数学以外にも応用し得るというレビューも散見されるが,それについても私は懐疑的である(具体的にどのように役に立ったのだろう?).しかし,教える側の人間にとっては,数学教育方法論の原典として,依然として価値はあるだろう.いかんせん,原著初版が出版されてから70年以上も経過しているので,色々と古いことは否めないが,名著を味わう目的で読んでみてはいかがだろうか.下図およびサムネイルは,本書の表紙のうらの次ページから拝借した.

 

 

Review

本書との出会い

「いかにして問題をとくか」・・・いかにも古めかしいフォントと,そのレトロな雰囲気に妙にひかれて,学生の頃,大学内の書店で何度か立ち見したことがあったのだが,結局買わずじまいでいた.高度な数学テクニック・解法を期待してページをめくっとみると,教師と生徒が直方体の対角線の長さの求め方を論じているのだから*1,時代遅れの本だと思って買うことはなかった.

それが最近になって,どのウェブサイトの記事だったか失念してしまったが,名著に分類される本であることを知り,ついに購入に至った*2.しかし文章がどうにも読みにくい.本書の読了率は正直な所,半分を下回っているが,名著といわれる所以は自分なりに理解できたと思う.

誰が読むべきか?

本書のはしがきには,学生と教師の両方が読者対象である旨が書いてあるが,どちらかというと,読むべきは教える側の人間ではないだろうか.理由は,次の項目で述べよう.

数学における「近代発見学」

はしがきにおいて,著者自ら根本的な動機と本書を著した理由を述べている.

《この解法はうまくて間違いがないように見えるけれども,どうしたらそれを思いつくことができるだろうか,[…] どうしたら私は自分でそれを思いついたり発見したりできるであろうか.》
       [...]

いろいろな問題の解だけでなく,その動機や手続を理解しようとし,又それを他人に説明しようと試みて,著者はこの本をかくことにしたのである.
(本書はしがき,  pp. vi--vii,より)

実際に本書では,具体的な解法の発想法や細かいテクニックではなく,解法にたどり着くまでの思考過程(本書の言葉では,思考作用)の分析が主として述べられている.著者はそれを数学における発見学(heuristic)あるいは近代発見学*3と呼んでいる.発見学とは,私はこの本で初めて目にした用語だが,本書でははっきりとした定義は述べられていない.本書のタイトルを真似すれば,「いかにしてこの解法を思いついたのか」を説明する手法のことではないかと思う.具体的には,経験則や格言の類である*4.ただ,本書で述べられている発見学の数々は,数学が得意な人,あるいは,問題を解き慣れた人にとっては,無意識に実践している事柄がほとんどなので,新鮮味は少ないだろう.この発見学が役に立つのは,むしろ,教える側の人間であると私は考える.

先に述べたように,本書では,第I部で直方体の対角線を求め方を指導する場面が描かれている.仮に,この問題を解けない生徒に,解き方を教えなければならないとしたら,どうするだろうか.大半の人は,「まず,直角三角形⊿ABCにピタゴラスの定理を使って対角線ACの長さを求める.その後,直角三角形⊿ACDにピタゴラスの定理をまた使えばよい」と具体的手順を示して終わりではないだろうか.ところが,教える側にとって,なぜこの解き方になるのか,どこからアイデアが出てきたのかを,説明することがしばしば求められるのである.そこで,本書の発見学の出番というわけである.そして,次のような質問が教師から投げかけられる.

分からないものは何でしょう

 本書のp. 12より.太字は原文通りである.

詳細については,本書を読んでいただきたい.しかし,このような教え方をされて本当にわかるようになるのだろうか,という疑問は残る.分かる人にとっては,無意識にやっていることを無理に意識させられて,逆にまどろっこしいことこの上ないだろう.それでも,教える側にとっては,本書のような発見学的な指針や枠組みは重要なのである.本書の名著といわれる所以は,数学の問題を解く過程で,無意識下で働く思考作用を明らかにし,数学教育方法論として提唱したところにあると,私は考える.■ 

*1:御存知の通り,ピタゴラスの定理を2回使うだけで,特に難しくない.

*2:2011年に,NHKクローズアップ現代でも取り上げられたようである.

*3:本書第III部,p.125

*4:表紙のうらに,チートシートのような形で,それらがまとめてある.裏表紙の裏にも全く同一のものが書いてあるのが不思議である.

Review: Signo-RT1 (三菱鉛筆)

Signo-RT1(シグノ RT1)は三菱鉛筆社製のノック式ゲルインクボールペンです. 本ペンの型番はUMN-155で,「Signo RT(型番:UMN-105)」の後継にあたります.

Review

インクは顔料配合

本ペンのインクは顔料配合*1で,耐水性・耐光性に優れます. しかし,顔料インクのデメリットとして,やはり乾きは遅いです. ゲルインクペンはどのペンもそうなのですが, Signo-RT1は特にペン先のチップにインクがまとわりついて汚れやすいように思います.

書き味は滑らか

筆記感は滑らかで書きやすいです. 旧版のSigno RTよりも滑らかのように感じます. 公式サイトよれば,インクの配合を多少なりとも変更したようです. この変更が,より滑らかな筆記感を生み出していると推測します.

「エッジレスチップ」

公式サイトで謳われているように,チップのボール付近にあった角は,滑らかに加工されています. 紙との摩擦を低減し,滑らか筆記感を生み出しているようです. ただし,インクにも改良が加えれれているので,チップの改良がどれほど滑らかさに寄与しているのかは定かではないです.個人的には,インクの影響の方が大きいように感じます.

洗練された「ワンモーションデザイン」

「スケルトンボディにラバーグリップ」というノック式ボールペンの定番デザインからついに脱却し,全体的に一新されました. 単色を基調とし,他の製品とは一線を画した,非常に洗練されたデザインに仕上がっています.
グリップと軸本体はネジ止めされていますが,見た目は一体感があります. ペン先周辺まで硬質のラバーで覆われているのが特徴的. 軸本体部分は若干透明で,目を凝らせばリフィルのインク残量を確認できないこともないです.

ノック部分のかたつき

デザイン・インク・筆記性能に関しては,欠点らしい欠点の見当たらなりませんが, ノック部分のかたつきという致命的欠陥を抱えています.
旧版Signo RTでは,よくあるように,軸本体にクリップがついています. 本ペンでは,親指で押すノック用ボタン部分にクリップの根本が結合しているタイプに変更されました. これにより,軸本体に加わった振動が,ノック部分からクリップへと伝播し, 結構な音量でカタカタと音を立ててしますいます. クリップがしっかり固定されていればこのようなことは起きないのですが,ノック部分に若干の隙間があるため,クリップが揺れやすい構造になっています. 非常に静かな空間で書いていると,ペンの握り直しや持ち換えたときや,ペン先が紙につっかえたときにも音がなるのが少々気になります.

リフィルの互換性

本ペンは,他社製を含め,色んな替芯を装着できるようです(逆もまた然り?). 自分で確かめた互換性のある替芯リストは以下の通り:

最後に

Signo 307も同社から最近発売されました. 307はSigno 207の後継であり,しかも307はインク色が赤黒青だけなので(RT1は多色展開), 完全に競合しているわけではありませんが, 事実上同社内で対抗製品になっています(こちらの方が良いかも・・・).
何はともあれ,旧版Signo-RTよりは改善されて大分良くなりました.□

(大幅改訂:2017年6月7日)

*1:三菱鉛筆社のペンのほとんどが顔料配合ですが,そういうポリシーなのでしょうか.