コラム:ボールペンの選び方 (4) −− ゲルインクボールペン編

前3回の続きです.

ゲルインクボールペン

水溶性の溶剤に,ゲル化剤を配合したインクを搭載したボールペンを,ゲルインクボールペンといいます.ゲルとは,粒子と溶媒が混ざりあった物質*1で,固体と液体の中間の状態にあるもののことです.別に特別な物質でというわけではなく,ヨーグルトなど,身の回りにゲルはたくさんあります.

ゲルの中には,圧力がかかると液状化し,粘度が低下する現象(チキソトロピー)を示すものがあります.このチキソトロピー性をボールペンインクに利用するというアイデアを発案したのは,サクラクレパスです.1984年に,キサンタンガムをインクに配合することにより,ゲルインクの実用化しています*2.これにより,水性ボールペンの欠点が解消されるので,ゲルインクボールペンは市場を席巻し,革命が起きました.その仕組は,次項で述べます.

特徴および長所短所

ゲルインクボールペンの筆記メカニズムは次の通り,少し特殊です.

  1. 替芯内部のゲルインクは,静止時には高粘度状態で留まっている
  2. ペン先を紙に押し付けたとき,ゲルインクに圧力がかかり粘度が低下
  3. 液状化したインクが,そのままペン先から流れ出て紙に付着
  4. 付着後は,圧力から解放されるので,再び固まる

これにより,水性ボールペンの欠点であった,筆跡の滲みがなくなりました.しかも,紙の表面で固まるため,裏抜け(裏写り)しにくい*3という長所が加わりました.また,ゲルインクは従来の水性インクに比べて乾きにくく,ノック式にしても,ドライアップの心配がありません

筆跡も,水性インクと同様に,均一で発色も良好です.ボールペンの中では,一番きれいに文字を書けます.特に,小さな字の筆記に最適です.ゲルインクにも,顔料配合と染料配合の2種類があります.顔料タイプであれば,耐水性・耐光性も優れてるので,長期保存文書の作成,提出書類の記入に最適です.ただし,乾きが遅いので,筆跡を手で擦って汚やさないように気をつける必要があります.染料タイプは,耐水性が保証されないので,要注意です.提出書類の記入には,耐水性等検証してからの方が良いでしょう.染料タイプは,顔料タイプより速乾性に優れるので,普段使い向きといえますす.

ゲルインクは粘度が低いので,もちろん低筆圧で書けます.とはいえ,従来の水性インクよりも粘度は高いので,摩擦抵抗もそのぶん大きめです.rollerball(水性ボールペン)ほど,サラサラとした筆記感は得られません.rollerballよりも高い筆圧に耐えることができますが,やはり,複写書類の記入には向きません.代わりに油性ボールペンをおすすめします.

ゲルボールペンには,欠点らしい欠点は見当たりません.強いていうならば,斜め筆記したり,素早く線を引いたり,丸つけをしたりしたとき,ペン先がインクで汚れやすい点が欠点です.対して,rollerballは全く汚れないです.また,油性や水性ほど尖った個性もない点も,マニアには物足りないと感じるかもしれません.

代表的製品

  • 三菱鉛筆社:シグノ(Signo)
  • ゼブラ社:サラサ(Sarara),サラサドライ
  • パイロット社:ハイテックC(HI-TEC-C),ジュース(Juice)
  • ぺんてる社:エナージェル(Energel),エナージェルユーロ,ハイブリッド,スリッチ
  • サクラクレパス社:ボールサイン

シグノシリーズ(1994年)*4 には,キャップ式とノック式両方があります.キャップ式は「シグノ極細」,ノック式は「シグノRT1」が現在の定番です.ボール径のラインナップは,共に0.28mm,0.38mm, 0.5mmで,細字筆記向けといえます.シグノ極細の方は少しカリカリとした書き味で,一方ノック式は滑らかな書き味です(同じ 0.5mmボール径で比較して).両方共顔料インクです.

サラサ(2000年)*5シリーズは,ノック式ゲルインクボールペンの定番*6で,一番手に入れやすい製品です.名前通り,インクが潤沢に出るタイプです.こちらは顔料インク採用.速乾タイプの「サラサドライ」は染料インクとのこと.

ハイテックC(1994年)*7は,極小ボール径のパイオニアといえるボールペンです.ニードルポイントと小さなボールの組み合わせることにより,滑らかな細字筆記を可能にしています.染料インクらしいので,耐水性は低いかもしれません.現在は,ジュースシリーズの方に注力しているようです.

エナージェル(2003年)*8は,インク潤沢タイプのゲルインクボールペンです.ノック式・キャップ式の両方があります.搭載されているエナージェルインクは,ゲルから液体への変化が普通のものより速く,それが滑らかな筆記感を生み出してるとのこと.さらに,紙への浸透速度も速いため,速乾性に優れるとのこと.また,エナージェルシリーズは染料インクらしいです.サラサドライは顔料インクを染料インクに変更して,速乾性を実現しています.エナージェルの場合も,染料インク故に紙に浸透し易いということでしょうか.

ニードルポイントで細字筆記向けのスリッチシリーズ(染料)も展開中.1989年に発売されたハイブリッドシリーズ(顔料?)もまだ販売中の模様.

ボールサイン(1984年)は,ゲルインクボールペンのまさに開拓者です.現在は少し影が薄くなってしまいましたが,おもしろいデザインの製品もあったりして,一目おいています.搭載インクは顔料タイプです.やはり,主要他社製品に比べると,手に入りにくいです.

種類が多いので,表にまとめました.

インク 顔料 染料
チップ形状 砲弾 ニードル 砲弾 ニードル
  ボールサイン     ハイテックC(HI-TEC-C)
  ハイブリッド     エナージェル(Energel)
  シグノ(Signo)     スリッチ(Slicci)
  サラサ(Sarasa)      
  ジュース(Juice)      

チップ形状の「砲弾」は普通のボールペンの,円錐の先を切り落とした形状のことです. 顔料&ニードルと染料&砲弾の組み合わせが無いのが意外です.

まとめ

適度な筆圧で,滑らかな筆記感,筆跡の掠れや滲みもありません.目立った欠点がなく,オールマイティ.筆跡の見た目を重視する場合,細かい字を書きたい場合はゲルインクに限ります.個人的なおすすめは,キャップ式ならハイテックC,ノック式ならシグノRT1.

*1:コロイドのこと,例えば,牛乳

*2:「ボールサイン」というゲルインクボールペンを発売しています

*3:水性ボールペンに比べて.ゲルインクでも染料系は裏抜けしやすい.

*4:シグノスタンダードの発売年 http://www.zebra.co.jp/cop/history.html より.

同公式サイトより,シグノ極細は1996年.シグノRT1は2013年.

*5:http://www.zebra.co.jp/cop/history.html

*6:公式サイトには,キャップ式製品の記載はないので,ノック式に限ります

*7:http://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/gel_ink/hitecc/

*8:http://www.pentel.co.jp/corporate/history/